「キーワード:中島みゆき」2006年3月20日(月)

神学モノローグ

 

 シンガポールで礼拝後教会の方々と食事をしていたときに、どういう 事でその話になったのかは覚えていないが、隣にいた同世代のご夫妻と 中島みゆきのことになった。私のiTunesには「地上の星」が入っ ていますと言ったら、その方々の車には最近ロサンゼルスで録音された「歌姫」があるというので、帰りに宿まで送ってくださる車のなかで聞 かせてくれた。その次第をウイークリー瞑想「シンガポール物語」に書 いた。

 ポートランドの日本人教会の聖書塾で奉仕で出かけ、40代のひとり の兄弟の家に泊めていただいた。その夜は兄弟の信仰のこと、家族のこ とをお伺いした。次の日の朝に教会に向かう車のなかで、兄弟が私にど のような音楽を聴きますかと尋ねてきた。それで私のコンピュータには 中島みゆきの「地上の星」が入っていますと返答した。それで大変気に 入られた。

 ポートランドでの奉仕を終えて帰ってきたら、30代の終わりの友人 の牧師から、中島みゆきについて私が書いた記事に刺激されて、ご自分 が高校生の時にどうして共感を覚えたのかを振り返って書いたメールが 届いていた。私はシンガポールでの不思議な会話として紹介したたけで あるが、この牧師の心のどこかに届いたようである。

 どうして今また中島みゆきが出てきたのか不思議である。私はここで 紹介した方々ほど彼女の歌を聞いているわけでない。ただ神学校で学ん でいたときから気になる存在であった。最初は自分が学生生活を送った 札幌出身ということがあった。北国の雰囲気がそうさせているのかとも 思った。それ以来なぜ彼女の歌が多くの人の心に届いているのかと関心 を持ってきた。彼女の公式サイトでは、「日本のおいて、70年代、8 0年代、90年代、2000年代と4つの世代(decade)で、 チャート1位に輝いたアーティストは、中島みゆき、ただひとりであ る」とあった。

 メールをくれた牧師の説明で納得できるものがあった。「好きで聴い ていたのですが、高校の時の私には、何が良いのか自分でも分りません でした。改めて、今、考えると『捨てられた者として生きていく』ある いは、『捨てられた者として生きている』、または、『捨てられたと感 じるものとして生きている(生きていく)』、『生きていこうとしてい る』その心にあるのではないかと思いました。」「私は、失恋して聞い ていたのではなく、親に捨てられた感覚の中で、共感を覚えていたのだ と、今、気づかされました。彼女の歌詞を思い巡らすと、捨てられたと いう感覚を受け止め、それでいて、今を生きていこうとしているので す。私はそう感じます。」

 確かに彼女の歌には生きることの難しさ、悲哀、空しさ、絶望感があ る。しかしそれで終わっていない。人生の悲哀を負いながらも生きてい こうとするひたむきさ、したたかさがある。この牧師は彼女の「ファイ ト」という曲で語っている。「『ファイト。闘う君の唄を、闘わない奴 等が笑うだろう。ファイト。冷たい水の中を、ふるえながらのぼってゆ け。』という歌詞です。、、、世の中は、冷たい水のようでした。しか し、その冷たい水の中で、生きていけと彼女は励ますのです。冷たさを 感じつつ、震えてでも、進んでいけるのだと励ますのです。」

 この牧師はご自分のコレクションを全部処分したと言う。それで図書 館でCDを借りてきて聞き直していると言う。そして再度メールを くださった。学生時代にもうひとり、尾崎豊のいう歌手に共感して聴い ていたと言う。彼との比較をしている。「彼は、生きることに悩みなが ら、‘そこ’に‘いず’、逃げ、反抗し、盗み、破壊します。私の好き だった彼と、みゆきさんの歌の対比から、みゆきさんには、‘そ こ’に‘いる’ことを感じます。悲しみを感じ、悩みを感じ、嘆き、逃 げたいと思い、変わりたいと思い、違う結果を求める思いもありなが ら、‘そこ’に‘いる’のです。ふと、『わたしはある。』を思い出し ました。単なる永遠の存在という意味の‘ある’だけではなく、そうい う意味の‘そこ’に‘いる’か?とも思いました。」

 生きることは容易なことではない。それでも生きていかなければなら ない。時には逃げ出したくなる。それでも向かっていかなければならな い。暗い闇に覆われる。それでも光りを信じて進むことができる。落胆 することがある。それでも希望を持つことができる。空しさに覆われる こともある。それでも信じることができる。

 中島みゆきは時代を読むキーワードである。何に惹かれ、何を求めて いるのかを知る手がかりである。シンガポールの兄弟は、今朝も仕事に 向かう車のなかで「歌姫」を聴いていましたとメールをくださった。ポートランドの兄弟は「帰り間際の中島みゆきの話は忘れられないこと になりました」と言う。この牧師は中島みゆきとの対話を通して言う。 「彼女の歌は、暗いので、クリスチャンになってから、私の中から抹殺 してきたようにも思います。私の心の空白時代に彼女の歌を聴いていた のですが、それを抹殺することで、新たな心の空白域をつくっていたよ うに思います。」  上沼昌雄記

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