「存在することの恐怖と静かなる神」2006年9月18日(月)

主にある友へ
 この土曜日(23日)にミニストリーの15周年感謝記念会をサクラ
メントのみくにレストランで持ちます。皆さまの祈りと励ましを心より
感謝いたします。上沼 2006.9.18

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神学モノローグ

 ホロコストを戦争捕虜のゆえに生き延びたレヴィナスは後年になって
「存在への敬意」を説いているが、捕虜生活を終わって家族と親戚のほ
とんどがホロコストで亡くなったことを知ったあと、1947年に出
した『実存から実存者へ』では、「存在することの恐怖」を語ってい
る。どうにもならないほど自分が存在していることにためらいと恐れで
ある。夜とか闇とか死とか戦争とかが存在にとって恐ろしいのではなく
て、存在すること自体が恐ろしいのだという。

 この書物はすでに捕囚のなかで書かれていたものであるが、「存在す
ることの恐怖」は子どもの頃から胸に秘められていたものであったとい
う。それがホロコストを通して消すことのできな事実となった。眠られ
ない夜に、私でも、家族でも、世界でもなく、ただ<ある>という無名
の沈黙の響きがどこからともなく届いてくる。「<ある>がそっと触れ
ること、それが恐怖だ。」死への不安ではなくて、<ある>という無名
性への恐怖である。私の存在を消してしまうただ<ある>というおぞま
しさである。

 フッサールの現象学は、外の世界のあることへの意識と意識している
自分を出発点としている。それは理論化も概念化もできない私という存
在を浮き彫りにする。ハイデガーはその存在を現存在として捉えてい
く。すなわち私の実存の現象学である。フッサールを根拠にし、ハイデ
ガーに共鳴しつつも、レヴィナスは私の実存より先に、すなわち、私の
存在が意識にのぼる前に、ただ<ある>という無限定な、不確定な重苦
しい気配を感じ取っている。

 昼には私は生きているを知っている。私にはミニストリーという仕事
があり、コンピュータに向かいメールを書き、記事を書く。妻と話を
し、家族と話をし、人と会話をする。私の存在を私は意識している。そ
れで安心感を得る。掛け替えのない自分であると自分に言い聞かせる。
しかし不眠の夜はそんな自分は助けてはくれない。私といいう主体は消
えてしまう。ただ暗闇に覆われ、無名の実存がうごめいていることに気
づく。ただ<ある>ということ、明日もまた生けなければならないとい
うこと、その重荷に疲れ果てる。

 レヴィナスはこの思いを子どもの頃から胸に秘めていたという。ただ
どうにもならないほどに世界が存在し、私も存在しなければならないと
いう恐れである。生き続けなければならないという恐怖である。ホロコ
ストがあっても生き続けなければならないのである。そんな<ある>の
不気味さを語っていながら、その<ある>をも支えている神への信頼は
一点の疑いもないほど澄み切っている。それは光りである。その光りが
あるので、私は「影」をいただいて生きることができる。

 小さいとき家の外からはるか北に見上げる赤城山の夕陽に照らされた
すそ野を眺めて、当然私とは関係なしに<ある>ことが存在しているこ
とに少なくともためらいと恐れを覚えた。私は家に入って夕食を食べ、
宿題をしてということでそんな思いはすぐに消えてしまったのである
が、いままたレヴィナスを読みながらそのときの思いがよみがえってく
る。そのためらいと恐れはしかし何度もよみがえってくる。ワイオミン
グの大自然に触れたときもそれがよみがえってきた。自然への驚異では
ない。私とは全く関係なく大地があり、天空があり、世界があるという
無名の「存在することの恐怖」である。

 赤城山はその名の通り、夕日に映えてすそ野が赤くなる。そのすそ野
が長く伸びているのが赤城山の特徴である。そのすそ野をはうように
空っ風が吹き下りてくる。その空っ風に向かいながら自転車をこいで高
校から帰る途中に宣教師館があった。そこでのバイブルクラスを通して
信仰を持った。神はどのようなことがあっても「在って在る者」として
存在しておられる。静かに存在しておられる。

 レヴィナスの存在への恐れは、私のなかで起こった存在への最初のた
めらいを新鮮なものとしてよみがえらせてくれた。そのためらいが静か
に存在しておられる神への信仰をもたらしてくれたのかも知れない。

上沼昌雄記

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