「目覚めていること」2007年8月20日(月)

神学モノローグ 

何かがずれているような感覚、それは違うのではないかという思い、こんなはずではなかったという反省、違った場所にいるような迷い、時代より先駆けているのか遅れているのか分からない戸惑い、何かを変えないといけないという促し、このままでは大変なことになるという危機感、話しても肩すかしを食ってしまうだろうという恐れ、そんなズレを感じることが結構ある。

何かが少しずつ変わってきていて、自分がそれに対応し切れていないでいることもある。時代は確かに動いている。ただ平板に無色で動いているのではない。色彩が変わり、響きが違い、風景が変化してきている。子供たちが捉えている価値観が変わり、方向付けが微妙に違ってきている。回りの人たちも変化し、変化に対応しようとしている。

教会で確かに聖書から語られていいるようで、何かがおかしいと思わされることもしばしばある。自分のなかだけで感じ、妻と分かち合っていただけであるが、教会の人も同じように感じていることを知ることになる。そしてかなりの深刻なことがあとで持ち上がってくる。

聖書の権威を主張しているその正しさは変わらなくても、その中に思いがけない間隙が潜んでいることを感じる。時間の変化のなかで出てくる。外側の枠がしっかりしていても内側からそれを崩していくものがある。どの時代もどの組織もそのままでいることはできない。何かが確実に変化をしている。そんなズレを不思議に感じる。

ためらいに似たそのような感覚をレヴィナスが「覚醒」「目覚めていること」と呼んで哲学の課題としていることを知る。「意識から覚醒へ」(1974年)という論文がある。主体と客体という二極化で従来の哲学は認識論を組み立ててきた。「意識」はそのような二極化には当てはまらない、すでに主体と客体を取り組んでいる知の構造である。フッサールから始まった現象学である。

すでに何かを意識している。しかしその何かを意識しているものが、外の世界そのままであれば、それは眠っていることだとレヴィナスは言う。安心しきって安らっていることである。すなわち「同」の世界に定着しているだけである。自分の世界だけに留まっていること、仲間同士の集い、教会に安着していることである。社会や国家に無批判に根を下ろしていることである。

そんな「同」のなかで安らいでいる意識を振り立てるものがある。そのままではいけないと声をかけてくるものがある。目を開けて外の世界をしっかりと観なさいと警告するものがある。眠れない夜をもたらすものがある。目を覚ましていなさいという夜の静寂がある。

それが「他者」であり、他者の「顔」である。意識の外にあって決して「同」のなかには同化しきれないものである。意識の枠の外にあって眠りを破るものである。レヴィナスは先の論文の初めに、雅歌5章2節のことばを掲げている。「私は眠っていましたが、心はさめていました。」そして確かに思いがけないことがそこから展開していく。そのような経験をさせられる。

不眠の夜に目覚めていること、それはあたかも捕虜収容所の夜の静寂で、なぜヨーロッパの哲学は、なぜハイデガーの哲学はナチスを止めることができなかったのか、それ以上になぜナチスの暴力を容認することになったのかと、問い続けているレヴィナスの姿を想像させる。何かがおかしいと感じている。不眠の夜に目覚めている。そして覚醒した夢を見ている。ヨーロッパの教会が安らかに眠りについているときに、レヴィナスは目覚めている。目覚めて、何かが決定的にゆがみ、欠けていることに気づいていく。「他者」は目覚めを起こさせ、不眠を誘う。

心のなかのズレを聞き届けていくこと、目覚めて見つめていくこと、思いがけないことに驚くこと、それは「目が見たことのないもの、耳が聞いたことのないもの、そして、人の心に思い浮かんだことのないもの。」(1コリント2:9)に通じる。何かを変えていく未来であり、新しい恵みである。外から吹いてくる風である。新しい風である。そして、待ち望むことであり、信じることである。

 

上沼昌雄記

 

追記:

この記事を書いているときに、この4年間ネパールで医療奉仕をした羽根田医師ご夫妻の体験記『ネパールの田舎医療に飛び出して』が届きました。読みながら、それまで順調にいっていた医院を飛び出してネパールに出ていく前に話をしてくれた、ご夫妻が感じていた何かのズレを思い出しました。このままではいけないという促しをしっかりと聞き届けました。そして出ていって思いがけない恵みを経験してきました。新鮮な恵み、新しい風をいただける体験記です。 

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中