「列車」2008年8月11日(月)

ウイークリー瞑想

 今週は日本では、いわゆるお盆休みと終戦記念日を迎えています。ミ
ニストリーの事務所として使わしていただいているロブさんの建物の前
は、このイースターの時に書いたのですが、この町の新しい墓地になっ
ています。丘陵地にありますので毎日墓地を見上げています。実は建物
の反対側には鉄道の駅があります。駅と言っても、日本の駅に比べた
ら、申し訳程度に建っている感じです。駅舎もありません。しかも単線
なのです。糸のように延びた貨物列車は通過するだけです。その列車の
響きが伝わってきます。それに合わせて窓側に移動して通り過ぎるのを
眺めています。眺めながらお盆休みと終戦記念日のことを思っています。

 線路があり、列車がその上を走る、それだけですが、それを眺めてい
るとどうしても旅の思いが湧いてきます。列車はどこに向かっているの
か、どこに行こうとしているのか、それだけで向こうの世界に思いを向
けてくれます。向こうの世界をいつも慕い求めている自分の心を思いま
す。今の生活だけがすべてでないことを知らされます。

 この国では線路地図や時刻表もありませんので、線路自体がどのよう
に走っているのかも分かりきれない状態です。駅は単線ですが、明らか
にもう一本の線路が近くに走っています。すでに山間なのでどのように
走っているのか分かりません。また、どうも上下線が明確に別れていな
いところもあります。線路の先、列車の行き先は想像するだけです。ま
た、そのような想像を許してくれます。

 いわゆるお盆休みを使って、故郷に帰る人、旅行に出かける人、いつ
もと違ったことを計画している人、暑い最中ですが今までとは異なった
ことを求め、経験しています。今では列車だけでなく、車でも飛行機で
も旅をすることができます。旅は未だ辿り着けない、見果てぬ夢です。
誰も到達したことのない世界に思いを向けてくれます。そんな旅を旧約
の民から今に至るまで続けています。その向こうにある世界を知らさ
れ、信じているからです。たとい旅の途中にどのようなことがあり、地
上の旅が全く思いがけないところで終わったとして、なお望み見ている
のです。その信仰の旅に生きているのです。

 そんな地上の旅を途中で強制的に終わらされた信仰者の旅を、終戦記
念日を思い、列車の通過を眺めながら思っています。すでに何度か書い
てきたユダヤ人でカルメル会の修道女であったエディット・シュタイン
は、オランダから「東方」、すなわち、アウシュヴィッツへ強制移送車
に乗せられて2日間の列車の旅をしています。貨物列車にぎっしりと詰
め込まれて、死に向かう列車の旅でした。須沢かおり女史のエディッ
ト・シュタインの伝記の最後でその状景が描かれています。1942年
の8月9日にアウシュヴィッツに到着して間もなく、ガス室に送られ、
そこで殺戮されたのです。66年前の一昨日のことでした。

 映画『シンドラーのリスト』で列車に詰め込まれて移送されるユダヤ
人の状況が描かれています。そこでは幸いにドイツ人シンドラーによっ
て救出されます。数え切れないほどの多くのユダヤ人がただ死に向かう
列車の旅を強制されました。そんなことが起こったことも想像もできな
いほどです。しかもそれほど前のことではないのです。アメリカに亡命
したハンナ・アーレントも、捕虜収容所にいたレヴィナスも、アウシュ
ヴィッツのことは想像もできなかったと言っています。しかし現実だっ
たのです。体制が変わり、悪が支配してくればどんなことでも起こるの
です。私たちは、そんなおぞましい存在です。

 事務所の裏を通過する列車の音の聞き、窓側によってその糸のように
繋がっている列車を眺めながら、その行き先を思いながら、その途上で
のどうにもならない悲惨さを通過しなければならないおぞましさを思わ
されています。終戦とは言わないで、敗戦と言う人がいます。同じよう
なことは起こりうる悪の力があるのです。それは裏の世界で、闇の世界
でいつでもうごめいています。

 汽笛を鳴らしながら列車が近づいてきます。過去を引きずりながら、
同時に今その過去を引きちぎりながら、未来に向かって通過していきま
す。

 上沼昌雄記

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