「孤独な旅人」2009年3月20日(金)

ウイークリー瞑想

 「長年隠していた自分の父の事を語った事で、心の中の風向きが変わ
り虚無な北風から生身の暖かさが混じる春風へと状況が変化してい
た。」そんな書き出しで、出会った本から、エルサレム賞をいただいた
村上春樹のことを一人の友が書いてこられた。東大文学部のOB会のサ
イトに載せるためだと言います。

 出会ったと言っても、ブックオフでその本のタイトルが飛び込んでき
て、本の方が読んでもらうことを待っていたかのように、手にして近く
の公園でむさぼるように読むことになったと言うのです。それはジャッ
ク・ケルアックの『孤独な旅人』です。1960年に出た、まさにビー
ト・ジェネレーションの代表作です。その邦訳の初版ものがハードカ
バーの箱入りでブックオフに出ていたと言うのです。

 数年前にこの方が、私の文章を読んでビートニクと言ってこられまし
た。その意味を説明してくれました。ケルアックの出世作『路上(On 
The
Way)』のそのビートに乗った文章のことをビートニクと言うらしい
のです。さらにそのビートニクとスプートニクを取り違える話から、ま
さにスプートニクのように、恋に陥っていつ戻るか分からない旅に出た
ガールフレンドのことを書いた村上春樹の『スプートニクの恋人』を紹
介してくれました。

 シアトルから山奥に入った合衆国森林管理局の山火事監視員として
3ヶ月間一人で過ごした時のことを、ケルアックが「山上の孤独」と言
うことで『孤独な旅人』で記しています。『スプートニクの恋人』の初
めの方でそこからの引用があります。『荒野での退屈な孤独でさえも意
味がある、自分自身を発見したただひとりの自分自身を頼り、その結
果、真のそして隠れた力を学ぶのだ!たとえば空腹の時に食べ、眠たい
時に眠る事を学ぶように、、、。』

 そんなことで気になって、確か数年前に『路上』を英語で読んで、文
章がビートに乗って踊りながら駆け巡っていることが分かりましたが、
今度はこのロンサムトラベラーと言う『孤独な旅人』を読んでみたくな
りました。今は幸い河出文庫で出ています。成田に着いて東京駅で新庄
行きの新幹線との時差を使って、八重洲ブックセンターで手に入れまし
た。半分眠りながら列車のなかで読んできました。

 訳者は詩人でもあるというので、あのビートに乗ったリズム感のある
文章を見事に訳しています。同時にセンテンスとセンテンスの間が説明
なしに飛ぶように跳ねているので、読みやすいというのでもありませ
ん。だれにも理解されない、だれにも見られていない、あのアメリカの
栄華を極めたような時代を、一人勝手に、そして一人寂しく旅をしてい
る青年の姿が文章そのものからも浮かんできます。それはどれだけ社会
的に成功したと思っている人も、そこから出ていって旅人として初めて
真実に出会うことを、ケルアックが代弁しているからです。真理は孤独
のなかでしか見いだせないのです。真実な出会いは孤独のなかでしか起
こらないのです。

 全世界からの帰国者の大会に参加しています。昨日はフォーラムを中
心に帰国者の受け入れなどをテーマにしていました。意味のあるパネル
ディスカッションを聴きながら、牧師も教会も異文化を経験してきた日
本人クリスチャンへの対応を真剣に考えていることが分かります。すで
に宣教師の子どもとして、異文化体験どころか、異文化にアイデンティ
テーを持っている日本人もいるのです。

 日本の教会への適用、帰国者の受け入れのことを聞きながら、さて待
てよという気持ちが起こってきました。それは何か、日本の教会という
か、教会そのものが最終的到着地のような響きを持っているからです。
どの国の教会もその国の文化を一杯吸い込んでいます。それでも帰国者
の課題は、その国の文化のなかの教会から、別の国の文化のなかの教会
への移行ではないのです。さらに教会そのものが寄留者としての旅人の
最終到着地でもないのです。教会は旅人のその都度の礼拝の場です。

 約束の地を求めて旅をしている私たちは、この地上では安住の地がな
いという意味では「孤独な旅人」です。アメリカの教会を経験し、日本
の教会を見させていただいて、教会が余りにも、アメリカでも日本で
も、その地に、その文化に同化し、埋没しているために、寄留者として
「孤独な旅人」であることを誇りに持って生きたくなりました。

 上沼昌雄記

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