「イチジクの実」2010年8月30日(月)

 隣家のイチジクの木が垣根に沿って実をならせています。ここカ
リフォルニアではイチジクを食べる習慣はあまりなさそうです。今
はスイカ、メロン、ネクタリン、桃、りんごと、どれも安価に手に
入れることができます。妻の両親のこの家の場所は、元々はオレン
ジ畑であったそうです。今でも庭にはそれぞれオレンジとミカンの
木が一本あり、今はまだ緑なのですが豊かな実をならせています。
表にはアボカドの木が二本あります。その一本の木が今年は食べ切
れないほど実をならせています。

 無視されているようなイチジクを見ながら、幼い頃イチジクのあ
の白い液で手がかゆくなるのを我慢して、取って食べたのを思い出
します。食べ頃を見計らって口にした、あの熟した実は少年の空腹
に一生忘れられない記憶の味を残しています。この春には秋田の教
会の方がイチジクの甘露煮をくださいました。それはイチジクを甘
みで煮込んだ深みのあるおいしさです。

 隣家のイチジクは、この窓辺から目を上げるとそこに見えます。
誰も手を出さないのですが、訪ねてくる生き物はいます。しかも日
が昇り、その実がちょうど食べ頃の温かさになったころに、どこか
らともなく真っ黒な蛾が待っていましたとばかりに食事に来ます。
オーブンも電子レンジもいらないのです。カリフォルニアの太陽で
す。熟したイチジクを真っ黒な蛾たちがおいしそうに突っついてい
るのです。多分小さな口でがぶりついているのでしょう。

 ちょうど食べ終わった頃といったらよいのか、食べている最中と
いったらよいのか、今度は雀たちが自分たちの番だと言わんばかり
に飛んできます。食事中の蛾たちが一斉に飛び立ちます。あきらめ
ないで戻ってきて食べ残しを確認しているようです。そんなことが
繰り返されるのですが、何時か雀たちだけの食事の時間になってい
ます。イチジクの皮は柔らかく、雀たちが突っつくにはちょうど良
さそうです。

 イチジクの木の天辺あたりに電話線が走っています。雀たちが代
わり番こにイチジクの実を食べていると、その電話線に真っ黒なカ
ラスが一羽、二羽と止まってきます。 雀はあわてて飛び立ち
ます。あっという間にカラスたちの食事の時間になります。しかし
カラスたちの食卓を見ていると、すさまじさを感じます。雀を追い
出しただけでなく、仲間でもおいしいイチジクを食べているものを
追い出して別のカラスが食いついていくのです。イチジクの実を口
にくわえて、やったと言わんばかりに飛び立っていくカラスもいま
す。先の蛾が戻ってきてイチジクの木の下の実を食べています。カ
ラスの体が大きすぎて届かないのです。

 蛾と雀とカラスがイチジクを巡って、朝のドラマを展開していま
す。太陽が天空の上にさしかかる頃には朝のドラマは終了していま
す。しかしこの朝のドラマを、ライプニッツがいう予定調和と取る
こともできますし、ダーヴィンがいう弱肉強食とも取ることができ
ます。雀が蛾たちに向かって、もう充分食べただろうから、今度は
自分たちの番だ、出ていってくれということで調和が取れていきま
す。カラスも雀に同じように言います。ここは自分たちの縄張りだ
から、食べたらどこかに飛んでいってくれとなるのです。しかし、
それぞれが自分たちの縄張りを主張して絶対に自分たちのものを触
れさせないとなれば、弱いものは徐々に強いものに追われることに
なります。待ったなしの生存競争の世界です。

 自然のドラマは寸時も途絶えることなく展開しています。そこに
自然の調和を見るのか、強者だけの生臭い世界と見るのか、朝のド
ラマを見終わったあとも気になります。すでに飛び立った蛾はとも
かく朝の食料にありつけたのでこちらが何を思っているのかまった
く気にしていません。雀もそんなこと関係なしにそれぞれ忙しそう
に飛び回っています。カラスは、ここはもう関係ないと言わんばか
りにどこかに行ってしまいました。

 この朝のドラマにどのような意味合いがあるのか、生き物たちは
関係ないのです。気になるのはこちらだけです。もちろん気にしな
いでも生きられます。でも一度気にし出すと不思議に考えないわけ
に行かないのです。私たちは、どんなことでも意味づけなしには生
きられないのです。同じように、イチジクのことも気になります。
ただ蛾と雀とカラスの食卓のためだけに存在していのではないだろ
うとも思うのです。

 そうでありながら、しかし、このようなテーマで考えているとい
つも不思議に心によみがえってくる神のことばがあります。あのヨ
ブに神が最後に答えたことばです。「わたしが地の基を定めたと
き、あなたはどこにいたのか。あなたが悟ることができるなら、告
げてみよ。」(ヨブ記38:4)

上沼昌雄記

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