「村上春樹、また」 2011年8月15日(月)

5月末に新宿のとある談話室で、村上春樹のことで座談会を持ちました。事の起こりは、その前年にカンセラーで聖学院大学大学院準教授の藤掛明氏にお会いして話をしているうちに、村上春樹のことで盛り上がってきて、座談会のようなものができるといいですねと言うことになり、それでは雑誌『リバイバル・ジャパン』の編集長の谷口和一郎氏に聞いてみようとことが切っ掛けでした。藤掛氏は闇の本について意味深い書評を書いてくださったので、お話しをしてみたくて、教会の坂野牧師を通して紹介していただきました。カンセリングを受けるような話から始まったのですが、どこかで村上春樹の本の話になり、一気に盛り上がってしまいました。

谷口氏はとても見識のある方で、座談会をするのであれば、この方にお願いする以外にないと思って、お願いしましたら、興味深いですねということで実現しました。福音的な関係で村上春樹を取り上げることができる広量を持ち合わせています。村上春樹のことでもご自分の意見を持たれています。それで3人で座談会をしました。

その第一回目がこの8月21日発売の9月4日号で出てきます。編集長の谷口氏は上手に藤掛氏と私の対談のようにまとめています。実際には3人の座談会です。記事を読んでいただくと分かります。タイトルも「村上春樹と現代社会、そして教会」と付けています。東北の大震災のことを受けて話が始まっています。その現場を見てこられた谷口氏の経験が、そのまま村上春樹の世界に入っていくことになるのです。違和感なしに入っていけるのです。それが村上春樹の魅力でもあります。

ただ現実的には、大震災のあとは村上春樹に関わっているような状況でもないという思いが今もあり、意識の外れから消えてしまいそうな感じもしていました。それでもう一度どれかの作品を読んでみようと思い、『1Q84』の「ブック3」を選んで、読んでみました。その物語はそこで終わっているのか、続きがあるのか、あるとしたら村上春樹はいま何を考えているのだろうか、知りたいというか、想像してみたくなりました。物語としてはどのような発展もありうるように思います。同時に、小説としてのメッセージ性のようなものは本人が否定しているのですが、ともかくそのメッセージ性は十分に伝わってきます。

興味深いことにこの「対談・座談会」で藤掛氏が、村上春樹の作品のユダヤ的・旧約聖書的な展開を指摘しています。確かに、神の民の歩みは旧約聖書で記されているのですが、その物語の継続性のようなものをユダヤ人は引き受けています。その物語のメッセージ性がありながら、その物語と同じようなことを経験していくのです。物語の継続性です。物語の完結性ではないのです。完結してそのメッセージだけを受け取るというのとは違うのです。物語と似たようなこと、同じようなことが今でも起こりうると見えているのです。

村上春樹の世界にもそのような継続性があります。1Q84のような世界は全くなさそうでありながら、どこかにそんな世界を感じることがあります。自分も高速道路の非常階段を下りていったら、月が二つある世界に入り込んでしまうかも知れないという感覚があります。リトル・ピープルが出てきて、思いがけない、しかしどこかで自分の本性を探られるような世界に導かれるかも知れません。マザとドウタの再生の振り替えしのなかで、抜け出せない世界でもがいてしまうかも知れません。パシヴァとレシヴァのような超感覚的な認識を経験させられて驚くかも知れません。あり得ない、起こりえないと言えるのですが、それでもどこかであり得ると認めさせられるような不思議な感覚が残ります。

確かに私たちは神を信じているのですが、聖書のなかのことはすでに完結したことで、現代では起こりえないと決めかかっているところがあります。聖書の完結性を勝手に宣言して、神をもその中に閉じ込めてしまっています。牧師も神学者もそれぞれの枠で神を閉じ込めています。当然互いの交流もありません。ある牧師とは顔は合わせていたのですが、なかなか親しくなることができませんでした。しかし、お互いに村上春樹を読んでいるということが分かって、そんな垣根があっさり取り外されたことがあります。

上沼昌雄記

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