「悪と、神の義と」2012年3月6日(火)

東北大震災からまもなく一周年を迎える。被災された方々がいまだ不自由な生活をされ、いまだ多くの行方不明者を抱えている現状に心を痛めている。遠くにあって被災地の復興を祈るのみである。滞在先に届くこちらの雑誌でも一周年の記事が載っている。その一つのクリスチャニティー・ツディー誌では、気仙沼の教会の嶺岸先生ご夫妻が、不思議に床だけ残った会堂で、津波が襲ってきたときの時間を示す時計を持って、立っておられる写真が載っている。昨年5月にその現場に先生ご夫妻をお訪ねできた。

イギリスの新約学者で、旧約聖書から新約聖書までの全体の流れを創造と契約の展開と見て、そのなかでの神の正義、神の義のあり方を捉えて、最近は一般向けの本も出している N.T. ライトの『 Evil and the Justice of God, 悪と神の義』という本を読むことになった。神の義の下で、悪の問題は避けられない。同時にこのテーマを2006年に具体的に取り上げることになった契機として、2001年から2005年までに起こった、ニューヨークの同時多発テロ(2001年)、インド洋沿岸での津波(2004年)、ニューオーリンズのハリケーン(2005年)、そしてパキスタンでの地震(2005年)を取り上げている。N.T. ライトの時代感覚である。

読みながら、そうすると、東北大震災のことも、その続きに入ってくるのだろうかという問いと、それは悪の現れと取ったらよいのか、神の義の現れと取ったらよいのか、ライトの意図とは関係なしに、多少理屈めいた問いが出てくる。ライトの意図というのは、悪の問題に関して、いわゆる神義論的な議論を避けようとしているからである。すなわち、神が世界を創造されたなら、なぜなお悪が存在知るのかという問いを、哲学的に神学的に解決しようとする西洋の思惟ではなくて、聖書での神の義と悪との相克を見ることで、聖書の世界を理解しようとするからである。学術書である『Jesus and the Victory of God, イエスと神の勝利』(1996年)のタイトルが示しているように、イエスの死と復活に勝利を見ている。悪と神の義を二元的に見ているわけでない。

昨年被災の状況をネットで追いながら、あの津波を引き起こしている宮城沖の海の底には誰もいったことがないが、その海の底のことについてヨブ記の終わりで、神のヨブへの答えの一つとして語られていることを思い起こした。思い起こしても、それを神が起こしたこととすぐに結びつけることに抵抗を覚えた。神の怒りの表れなのだろうか、神が許して悪の力が暴れているのだろうか。当然そんな問いは、被災の現場と、復興の活動のなかでは封じられなければならない。それでも問いは残る。教会でのボランティア活動に関わっていても、支援のための方策を考えていても、政府の対応を見ていても、ぬぐい去れない息吹のように付きまとってくる。繰り返す波のように、心に押し寄せてくる。神の義が最終的に果たされるためであっても、なぜこのようなことが東北の太平洋岸で起こったのか、それが東京を直撃していたらどうなったのか、問いはかたちを変えて出てくる。

1755年にポルトガルの首都リスボンで大地震と大津波が起こり、壊滅的な被害と、今回の震災の倍以上の死者を出した。このリスボン大震災は、後のヨーロッパの啓蒙思想の陰となった。ライプニッツもカントもこの陰を引き受け、避けないで取り上げている。それでも西洋の啓蒙思想は多大な影響をもたらした。そしてその結果とも言い得るかのように、ホロコストを通して悪が前面に出てきたことで、その終焉を迎えた。レヴィナスは、神義論の終焉とまで言う。

東北大震災の復興は始まったばかりである。計算できる期間のなかで完成することでもない。その影響がどのように残っていくのか見守りたいが、スコープを越えたことでもある。日本の宣教、伝道、牧会に関わる人はだれでも、それは世代を超えて、この大震災が神の前でどのような意味合いを持っているのか、考えて答えを出すと言うより、そのインパクトを見つめ続けていく責任を負わされているかのようである。神の義をいただいているものとして避けられないことでもある。イエスの死と復活によって、悪への勝利を示された神、その神を信じる者が負い続けなければならない課題である。

上沼昌雄記

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