「二つの1639年」2012年9月5日(木)

 2年ほど前に最上川の脇のレストランで友人と食事をしていたときに、この先の佐野原という村にキリシタンの史跡があって、しかもそこから切支丹宣教師が、迫害を逃れて、朝日岳の山を越えて、酒田に出て、さらに日本海を渡って北海道に入り、そこから樺太を通って、シベリヤを経由して本国に帰ったという話を、当たり前のように話してくれました。それから2年、その事実を確証したくて、できるところで資料を当たったのですが、いまだにその事実には到着はしていません。しかし、当時ある宣教師は捕まって江戸で処刑され、ある宣教師は行方が分からないままで、捜査状まで出ていることが分かりました。それが当時の年号で寛永16年、西暦1639年かその前後なのです。

 友人で切支丹研究をしている牧師が、ローマまで行った日本人の切支丹で、その後日本に潜入して殉教したペテロ岐部のことを教えてくれました。松永伍一著の『ペテロ岐部』(中公新書)をようやく読むことになりました。そこで分かったことは、このペテロ岐部も迫害のなか追われる身で、結局仙台で捕まり、江戸で逆さづりというひどい拷問のあとで殺されたのです。その年が同じ1639年なのです。それは、江戸幕府の鎖国政策が体制として固まった年でもあります。

 昨年別の友人が、私がマラーノのことに関心を持っていると言うことで、マルコス・アギニス著『マラーノの武勲』(作品社)という本を紹介してくれました。マラーノとは、1492年にスペインでカトリックの王から、ユダヤ人が国外追放か改宗を迫られて、ユダヤ教からカトリックに改宗したユダヤ人のことをマラーノ、豚という意味で呼んだのです。改宗したユダヤ人は、すでにスペインとポルトガルで経済的、社会的地位を得ていたために、改宗後も疑われ、当然反ユダヤ思想が絡まって、異端審問にかけられたのです。

 この本は、アルゼンチンまで逃げたマラーノを執拗に追いかけるカトリックの異端審問の歴史を小説としてまとめています。しかし実際に追い詰められて処刑されたフランシシコ・マルドナド・ダ・シルヴァという実在の人物を題材にしています。歴史的なマラーノの苦難と逃避行の歩み、決して手をゆるめないカトリックの異端審問の残虐さを一大スケールで描いています。著者自身もユダヤ人で、その両親の家系のほとんどがナチスによって殺されていると言うことです。ダ・シルヴァはついに捕まり、しかしマラーノであることを取り下げることなく、異端審問委員会のもと火刑にあって死んでいくのです。その年が何と1639年なのです。

 3人の友人が紹介してくれて辿り着いた日本とアルゼンチンでの、二つの1639年です。単純に考えて、一方の日本では、カトリックの信者と宣教師が隠れ切支丹として江戸幕府によって殉教し、他方のアルゼンチンでは、そのカトリック教会が隠れユダ人を迫害し、火炙りにしてしるのです 。神の名、キリストの名のゆえに、どのような迫害をも耐えて、殉教していくその信仰が、今度は自分たちの信仰にあわないと言って隠れユダヤ人を火炙りにまですることができるのです。ただこの事実関係にぶつかって、はて? どのように考えたらよいのかとたじろぐのです。

 それはカトリック教会だからということではかたづけられないものがあります。プロテスタントの教会も、ナチスの時代に、直接ではなくてもナチスに加担するか、黙認するかで、ホロコーストに関わってきたのです。キリスト教会の歴史も、歴史である限り、勝者の歴史で終わってしまいます。しかし、その歴史は、まさにその長い時間のなかで、敗者の歴史も露呈していきます。そのときに、それは聖書なのか、聖書を基盤にしているようで別のキリスト教なのかと自問します。その度に、何か根本的な課題を私たちの聖書理解が抱えているのではと思わされます。それは、うがった言い方なのでしょうか。

上沼昌雄記

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「「二つの1639年」2012年9月5日(木)」への1件のフィードバック

  1. 「二つの1639年」を読みました。

    他者を通して自らを問う視点ということが大切なのかと思いました。
    クリスチャンが自らの信仰をもう一度問い直す。世と触れ合いながら自らの姿をもう一度問い直すということが大事なのかなということを思いました。

    他者を排除するのは簡単です。他者を理解しよう、自分を他者を通して見つめなおしてみよう、たとえ腹が立つ相手であっても、当初は受け入れられない状況であっても、必要があって、摂理があって、そばに備えれている存在として、また自分をみつめるチャンスを与えてくれる存在や出来事ととして、見つめることはできないだろうか。。

    いつも不可解で「なぜ」とおもう出来事や人物に出会うときに
    自分を問い直す契機となるようにうめきつつ祈りつつ生きています。

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