「ギリシャ人とイエス」2013年10月3日(木)

 イエスのエルサレム入場に際して興味深い記述があります。ヨハ 
ネ福音書の12章で、イエスのエルサレム入場に合わせるよう 
にギリシャ人が登場するのです。「礼拝のために上ってきた人々の 
中に、ギリシャ人が幾人かいた」(20節)と、あたかもあえ 
て記しているかのような書き方です。どこから上ってきたかは記さ 
れていません。礼拝のためとありますからすでに信仰を持ったギリ 
シャ人なのでしょうか。あるいはユダヤ教に改宗したギリシャ人な 
のでしょうか。

 今まであまり注意を払ってこなかったのですが、あの地中海周辺 
ではすでにユダヤ人とギリシャ人との交流というか関係は、想像す 
るよりはるかに浸透していたようです。すでに旧約聖書は70 
人訳としてギリシャ語に訳されていました。当然なのですが新約聖 
書はギリシャ語で書かれたのです。エルサレムでもギリシャ文化は 
かなり影響していたようです。ですからギリシャ人で信仰を持った 
人が礼拝に上ってきても問題はないのですが、このようにあえて記 
していることに何かの意味があるのでは考えてしまいます。

 というのは話が続いているからです。その人たちがピリポを通し 
てイエスに面会を求めるのです。ピリポはアンデレに話し、ふたり 
がイエスに話を伝えているのです。何かそこに思惑めいたもの、あ 
るいはためらいのようなものがありそうに思うのはうがった見方な 
のでしょうか。何としてもイエスに面会したいと思っているギリ 
シャ人、それをどうしたものかと考えている弟子たち、ヨハネはど 
うしてこのようなことを記しているのでしょうか。

 それを聞いたイエスが、ギリシャ人に会うとも会わないと何も言 
わないで、「人の子が栄光を受けるときが来ました」と、弟子たち 
に言い出しています。ギリシャ人の訪問があたかも、イエスの中に 
ご自分の時を知る契機になったかのような言い方です。何かがイエ 
スを動かしたのだと思います。そして次に言われた一粒の麦のたと 
えはまさに何かを意味しているようです。

 「一粒の麦がもし地に落ちて死ななければ、それは一つのままで 
す。しかし、もし死ねば、豊かな実を結びます。自分のいのちを愛 
する者はそれを失い、この世でそのいのちを憎む者はそれを保って 
永遠のいのちに至るのです。」(24,25節)イエスに 
従う者が取るべき生き方を語っています。あたかもギリシャ人にそ 
れを示すべきだと言っているかのようです。ギリシャ人とイエスに 
従う者との決定的な違いであると言いたいかのようです。

 エズラの神殿再建とネヘミヤの城壁再建の間にギリシャ哲学の祖 
といえるソクラテスが生まれています。すなわち旧約聖書が書物と 
して完結していく時にギリシャ哲学が栄えていくのです。プラトン 
もそのイデア論をユダヤ人の唯一神と創造神から得たとも言われま 
す。パウロの時にエピキュロス派とストア派の哲学が支配的でし 
た。キリスト教は避けられないかたちでギリシャ哲学と交流してい 
きます。飲み込んだのか、飲み込まれたのか、何とも微妙なところです。

 それでも一つ分かることがあります。ソクラテスは、「汝自らを 
知れ」と、それが哲学の目標のように言います。ギリシャ哲学を始 
めとして、西洋の哲学は、どこかで、そして確実に「自ら」が中心 
に世界が展開していきます。「自ら」を視点に世界を見て、その世 
界を自分に納得いくように説明していくところがあります。自己中 
心と言えるし、存在の我執とも言えます。「自ら」を決して捨てな 
いで、むしろ確立していく世界です。確立することで安心感を手に 
入れるのです。まさにそのために努力をするのです。西洋文明の基 
本的な姿勢です。

 イエスがギリシャ人の来訪を聞いて言い出した一粒の麦のたとえ 
は、そんな自己確立の世界観に対して真っ向から反対の自己否定の 
生き方を語っています。そしてそれを示すために自分の時が来たと 
言っているようです。何かそんな緊張感がこの場面で漂っています。

 振り返ってみるに、そんな緊張感は薄れて、キリスト教がどこか 
でそんなギリシャ哲学の世界観に飲み込まれて、自己確立のための 
信仰に成り下がってしまっているのではないかと思うのは、杞憂な 
のでしょうか。

上沼昌雄記
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