「『刑事コロンボ』」2015年3月9日(月)

 数年前に義弟が 『刑事コロンボ』DVD完全版を両親 
へのクリスマスプレゼントしたものを、義父の看病の合間、夜中に 
妻と自分たちの部屋で観てきました。犯人が初めから分かっていて 
完全犯罪のように思えるものを、刑事コロンボが解き明かしていく 
ドラマはストレス解消に役立ちました。

 家に戻ってきて10日以上経ちます。60巻以上の『刑 
事コロンボ』を全部観ることができなかったので、後半の2シ 
リーズを借りてきて観ています。ご存じのように『刑事コロンボ』は70 
年代と90年代の2回に渡って製作されました。前半のものを 
日本で観たことを覚えています。

 父の看病は足かけ5年にわたっていましたが、後半の3年間は同 
時に翻訳の仕事にも携わっていました。その関わりで光文社古典新 
訳文庫のことが話題になりました。その火付けになったのが亀山邦 
夫訳の『カラマーゾフの兄弟』でした。「いま、息をしている言葉 
で」訳し直されたもので、好評のようです。両親のところから40 
分ほど離れたところに日本のブックオフがあり、同じ亀山郁夫訳の 
『罪と罰』をみつけました。看病と翻訳をしながら読んできて、家 
に戻って読み終わりました。

 確かに読みやすい感じはするのですが、『罪と罰』を最初に読ん 
だときの陰鬱な感じ、暗い感じがないので、逆に違和感を覚えまし 
た。といってもロシア語を読めるわけでないので判断の仕様があり 
ません。ネットで調べてみるとそれなりに違和感を感じている人が 
いることが分かりました。それ以上どうすることもできないのです 
が、逆に興味を覚えました。

 それで手元にある新潮社文庫の『罪と罰』(工藤精一郎訳)の 
「あとがき」を読んでみました。そこで『刑事コロンボ』に出会っ 
たのです。すなわちラスコーリニコフを追い詰める予審判事ポル 
フィーリイが『刑事コロンボ』の原図であるというのです。高利貸 
しの老婆とその妹を殺した犯人は私たちには分かっていて、それを 
追い詰めていくストーリーは、確かに『刑事コロンボ』のやり方そ 
のものです。『刑事コロンボ』の脚本家自身がその原図が予審判事 
ポルフィーリイであると言っているようです。

 追い詰めるといっても、犯人は逃げるわけでもなく、むしろ近づ 
いてくるという心理を用います。どこかに綻びが出てくるのです 
が、知らん顔をします。そうすると犯人はより近づいてきます。自 
分から話を始めます。さらに核心を突いていきます。その上で犯人 
の良識を信頼します。『罪と罰』はそのやり取りだけでも迫力があ 
り、引き込まれます。『刑事コロンボ』はその場にそぐわない車と 
服装、寝ぼけたような顔とぐじゃぐじゃの髪の毛、ピントがはずれ 
たようで的を射た質問に、思わずのめり込みます。

 追い詰め、追い詰められる場面にこちらの心の何かが敏感に反応 
します。自分の心が見透かされているような感じになります。追い 
詰める方にも、どうしてそんな心のことが分かるのかと思い、追い 
詰められる方にも、どこかで自分の心のような思いになります。殺 
人とまでいかなくても、人を傷つけ、また傷つけられてきたことが 
あります。それは法的な問題にはなりません。しかし罪意識は残り 
ます。追い詰めることも、追い詰められることもないのですが、心 
にしっかりと残っています。それで何かの拍子にラスコーリニコフ 
のようになります。また、刑事コロンボのような人が「実は、もう 
ひとつ」といって、何かを問いかけてくるのではという恐れもあります。

 ポルフィーリイはラスコーリニコフに自首を勧めます。自分が 
黙っていれば、自発的な自首になり、刑が軽減されると彼の良心に 
訴えます。ラスコーリニコフはその良心に促されるように自首をし 
ます。確かに刑は軽減され、彼はラザロのよみがえりのように新し 
く生き返っていきます。『刑事コロンボ』はそこまではできませ 
ん。それでもそのやり方をポルフィーリイから取り入れているとい 
うのは何とも興味深いことです。何と言っても、そんな人物をドス 
トエフスキーが作り出しているのです。

 私たちの罪と、その源である悪をご存じである神が、たとえ知ら 
ん顔していても、どうにも逃れられないように追い詰めていくこと 
に、なぞらえることができるのかも知れません。追い詰められる私 
たちの心を見守りながら、またどこかで私たちの良心に訴えてくる 
かのようです。そんな神の取り扱いといえる霊の世界の動きを『刑 
事コロンボ』を観ながらでも感じさせられます。深遠なドストエフ 
スキーから連動している世界です。

上沼昌雄記
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