「人間としてのキリスト者」2016年9月9日(金)

 N.T.ライトがその著『クリスチャンであるとは』の終わりにかけて、クリスチャンとして生きることは真の人間として生きることであると、繰り返し語っています(191,200,310,311,313,315,334頁)。翻訳をしていたときから今に至るまで、この表現について考えています。見方によってはとんでもないことを言っているわけです。クリスチャンでなければ人間として生きられないともなるからです。また自分の理解しているクリスチャンのイメージが、真の人間としていることになるのかと自問させられるからです。取りも直さず自分もライトと共に、クリスチャンとして生きていることで、真の人間として生きている実感を持っているのか問われるからです。

 ライトの聖書の全体像を理解する前に、実は、ユダヤ教徒で哲学者であったレヴィナスの著書を読んできました。誰もが苦闘させられる内容なのですが、不思議に分かってくることは、ユダヤ教のことを展開していながら、それが哲学的な根本問題を提起していることです。別な言い方ですと、旧約聖書の世界が人間としての生き方の提示そのものである分かってきます。レヴィナスは説教者でないので、口を酸っぱくして宣伝しているのではなく、人間存在を現象学的に提示しているだけです。その視点が従来の西洋の哲学とあまりに違うので、理解するのに苦労します。しかしそれは旧約聖書の世界だと分かると、人間理解と聖書理解に新しい地平が開かれてくるのが分かります。

 レヴィナスは、イザヤ書58章7節「飢えた者にはあなたのパンを分け与え、家のない貧しい人々を家に入れ、裸の人を見て、これを着せ、あなたの肉親の世話をすることではないか」と言うことを大切にしています。興味深いことにそれに呼応するように、マタイ福音書25章40節「あなたがたが、これらのわたしの兄弟たち、しかも最も小さいものたちのひとりにしたことは、わたしにしたのです」と言われていることを見いだして驚いています。レヴィナスは神を愛することと隣人を愛することをそれほど区別していません。そこに人としての生き方を見ています。ユダヤ教は宗教の一つとして意味があるのではなくて、人間の生の一部として意味があると言っています。

 ライトも同じ意味で、キリスト教を宗教の一つとして取り上げているのではなく、人間の生き方として提示していることが分かります。ライトが、旧約と新約の結びつきを大切にして、創世記から黙示録までの全体像を提示しているときに、旧約のひとつひとつも人間として生きるために不可欠であると語っています。律法(トーラー)についても次のように言っています。「一世紀の敬虔なユダヤ人にとってトーラー(律法)は、遠く離れた神による恣意的な定めではなく、イスラエルをヤハウェに結びつける契約を意味する特権であった。それは、真の人間とは何かを見いだす道である。」(310頁)そこにキリストと聖霊による助けがあって律法が成就していくのです。新改訳によるローマ書10章4節の「キリストが律法を終わらせた」のような理解ではなく、その脚注にあるようにキリストは「律法の目標」なのです。聖霊がそれを助けてくれます。そうすることで私たちのうちにも律法が成就していきます。

 レヴィナスは、当然ですが、旧約にとどまってしまいます。ライトはさらに新約で、キリストの十字架と復活、そして聖霊の助けによって、 神の創造が新しくされることを、黙示録までで展開しています。そのために神のかたちを担う者として、私たちがこの地で、この世で神を愛することと隣人を愛することを、責任を持って果たしていくことが求められます。そうすることで真の人間として生きることになるのです。それは実際には大変なことです。自分の殻に閉じこもっているわけにいかないからです。自分からでて、神と隣人に向かっていくのです。この点においてレヴィナスもライトも西洋思想の自己中心性を見抜いています。執拗な自己愛から出ていくことで、真の人間としての生き方があるのです。それは厳しいことですが、キリスト教の存続に関わることです。

上沼昌雄記

Masao Uenuma, Th.D.
muenuma@earthlink.net
masaouenuma@yahoo.co.jp
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